重度の虫歯の治療では、一般的に「歯の神経を抜く」と言われることがありますが、実際にどんな治療を行っているかご存知でしょうか。
下の図のように、虫歯が進行して歯の神経が細菌に感染すると、神経が細菌に侵されて強い痛みを起こしはじめ、やがて歯の根の先には膿の袋が出来てしまいます。治療せずに悪化すると歯根嚢胞という病気に発展し、歯の周りの骨や組織まで溶かしてしまいます。
このような重度の虫歯の治療では、細菌感染した歯の内部組織の処置を行う必要があります。
この処置を「根管治療」もしくは「歯内療法」といいます。
根管治療(歯の神経の治療)では、リーマーやファイルと呼ばれる器具で、細菌に感染してしまった歯質や神経を徹底的に除去し、薬剤によって歯の中の細菌を殺菌した上で、充填剤で密封します。
この処置によって、歯の内部組織の汚染を止め、痛みや膿の拡大を防ぎます。
歯の神経は複雑に入り組んだ構造になっているので、内部の膿や細菌を完全に取り除くことは難しい。
根管治療は『歯の神経を抜く』と、簡単に言われていますが、最初の治療でしっかり処置をしないと、歯の中で細菌が再び増殖するリスクが高まります。
そうなると、いつまでも再発・再治療を続けて、いずれは抜歯になることも珍しくありません。根管治療はとても難しい治療なのです。
保険診療の請求内訳データから。(東京都)
保険診療では50%以上が再処置となる。
日本では歯科治療は保険診療が一般的です。
しかし、保険診療の性質上、治療内容は必要最低限(痛みを止めるまで)のものに限られます。
保険を適用した場合、様々な制限があるため十分な治療ができるとはいいきれません。実際、保険適用の場合は個々の歯科医の経験に頼った治療になることが多くなります。
では、日本の一般的な保険診療で根管治療をすると、成功率はどのくらいになるのでしょうか?実は統計によると、保険診療で根管治療を受けた場合の成功率は50%以下と言われています。(東京都調べ)
根管治療は、アメリカに留まらず、アジア諸国でも「一般治療」とは分けられ、専門医が行っています。
それほど歯の根の治療は難しく複雑なのです。
もし治療後にきれいなセラミックの歯にしても、根管治療が失敗ならば全てやり直しになってしまいます。
再発を防ぎ、確実に治療するのであれば、専門医・認定医の手による治療を受けるのが望ましいと言えるでしょう。
根管治療の難しさは、再治療が困難だという点にもあります。
保険診療での治療成功率は50%程度ですから、単純な計算では2人に1人の方は一度治療した歯を再度治療することになります。
初期治療の失敗は、主に以下のような原因で起こります。
1・2・3は密封された歯根内部で細菌が再繁殖してしまいます。
4は歯を密封できなくなるので、再発してしまったなら通常の根管治療では治療不可能です。
また、初期治療の失敗による疾患は、一時的に痛みが消えている間に細菌による組織破壊が進行していることが殆どです。
そして時間の経過と共に病変は深刻化していきます。
「痛みはないんだけれど違和感があるので…」と仰って来院した方のレントゲンを撮ってみたら、歯茎の組織や骨を溶かして
巨大な病変と化していることも決して珍しくありません。
気付かずに進行してしまった後での再治療は、初回の治療に比べて成功率が低下します。
そのような事態にならないように、根管治療は初回の治療でしっかり完治させることが望ましいのです。
歯の治療では頻繁に行われる神経の処置ですが、きちんと治すのはとても難しい治療です。
そこで阿佐ヶ谷シオン歯科・矯正歯科では、より精度の高い根管治療を目指し、学会認定医の手による、精密根管治療を行っています。※
※資格保持者は全国で300名弱(2014年現在)
どんな治療でも、最初の診断が的確に行われていなければ、治療のゴールが定まらず、場当たり的な治療で終わってしまいます。
まして、根管治療のように難しい治療では、診断の重要性は非常に大きくなります。
阿佐ヶ谷シオン歯科・矯正歯科では、認定医による正確な診断を元に治療計画を行い、安心して治療を受けられる体制づくりに努めております。
根管治療で重要なのは「細菌の感染部位をしっかりと除去する」こと、そして「細菌の再感染を可能な限り防ぐ」ことです。
これらを実現するため、当院は精密根管治療の為に、各種の設備・器具をご用意しております。
治療中の患部に細菌が再感染することを防ぐために、ラバーダムを使用します。
ラバーダムはゴムの被膜で口内を覆うことで、患部に唾液が触れることを防止し、唾液による細菌感染を防止する非常に重要な器具です。
ラバーダムを使用して熟練者が的確な治療を行うと、治療の成功率は90%まで向上すると言われています。
再発防止には、歯の内部に感染部位を残さないことが大事です。
感染部位を確実に除去するため、患部をより鮮明に見れるよう、拡大鏡を使って処置を行います。
(※マイクロスコープによる施術を希望される方は、当院の認定医が勤める大学病院での施術、もしくは提携医院のご紹介をさせていただいております)
根管拡大装置、Xスマート・プラスを導入し、より確実な治療に努めています。
根管内部の的確な形成・拡大、薬剤の充填に非常に高い性能を発揮します。
難度の高い根管治療でもスムーズに処置が可能です。
一般に用いられるステンレスに比べ、ニッケルチタン製ファイルは超弾性の性質を持ち、非常にしなやかです。
そのため根管を不必要に傷つけません。
ただし、強度は弱いので、施術者には破折を避ける熟練が必要です。
一般に、歯の神経が細菌に侵され、痛みを起こす場合、適切な根管治療と、しっかりとした薬剤の充填で治療が可能です。
しかし、一般的な処置では 回復不可能な症例もあります。
例えば歯に亀裂があり密封が不可能であったり、根管が塞がっていて患部に治療器具が届かない場合は、一般的な治療では抜歯するしかなくなります。このような難症例では、歯根端切除術などの外科的処置が必要になります。
重度の根尖病変の治療が可能な歯根端切除術ですが、施術を行っても治る見込みが少ない場合は施術を行えないことがあります。
その場合は、抜歯による治療計画をご相談させていただくこととなります。
一般的な根管治療では対処できない、難症例の治療をご紹介します。
以下の症例は、当院の根管治療認定医が処置した施術の一部です。
図1は来院時のレントゲン画像です。
本来なら歯髄を除去した空洞(黄色の線で囲われた部分)に、薬剤が充填され、密封されていなければいけません。
隣の歯には先端まで薬剤が詰められていますが、黄色の線の内部には何も詰まっていません。
そのため根尖病変が再発しています。
図2は、再治療を施してから術後3ヶ月の画像です。
歯の内部に隙間なく薬剤が充填され、密封に成功しています。また、膿の袋も除去され、周囲の組織が再生しています。
レントゲンは柔らかい部分や空洞が暗く写ります。 歯根の先端に不自然に暗い部分があると、そこに膿が溜まっている(歯根嚢胞がある)ことがわかります。 |
非常に大きな病変が出来ています。
一般の処置では対処できないため、紹介を受けました。根尖端切除術で治療します。
図1・2 黄色の枠内の暗くなっている部分は全て膿の袋(歯根嚢胞)です。 周辺の組織と骨を溶かして巨大化しています。 |
歯根端切除術を施しました。 2枚めは、術後4か月の経過観察です。 最後は術後1年の経過観察です。 |
図1のレントゲン写真を見てください。
根尖端切除術では通常、歯の根の先端を切除した後、EBAセメントやスーパーボンドなどの薬剤を使い、消毒・密封を行います。
しかし、この症例の患者さんが受けた処置では、根尖端を切除しただけで、根の先を密封(逆根充)していないままになっています。
密封が出来ていないため、歯の内部に細菌が入り、症状が再発しています。
お悩みの方は、是非当院までご相談ください。
日本の保険診療で行う一般的な根管治療の成功率は50%と言われます。
もちろん、保険診療の処置であっても、技術と経験がある歯科医が行えば再発率はもっと下がるでしょう。
とはいえ、平均的には保険で行った根管治療は2回に1回以上は『再発→再治療』となるということです。
しかし、なぜ根管治療はこれほど成功率が低いのでしょうか。
実は、健康保険の診療報酬では、根管治療は『最大の赤字・不採算部門』なのです。
根管治療の診療報酬額は、アメリカの約1/10〜1/20、シンガポール・マレーシア・フィリピン・韓国など、アジア諸国の約1/7程度です。
専門的な設備・器具は当然使えません。再感染による失敗を防ぐ上で非常に重要なラバーダムは、20年度の改定で保険診療報酬の項目からも外されてしまいました。(外される前も100円という報酬額で、原価だけでも赤字だったため、まず使われなかったのですが…)
頻繁に行う必要のある治療でありながら、この診療報酬額ですから、日本の歯科医は『保険診療では難しい根管治療にコストを掛けず、症状が悪化したら抜歯対応で済ませなさい』と言われているに等しいのです。
したがって、健康保険診療においては真面目に根管治療を学び実践するほど、歯科医院経営を悪化させてしまうので、万全の根管治療は不可能に近くなります。更に歯科医の教育の上でも技術の習得・継承が為されないようになっています。
これでは保険診療で行う処置の再発率が高いのも、決して単なる怠慢とは言えないのではないでしょうか。
根管治療は、自分の歯を残す上で、とても重要な治療なのですが、残念ながら日本の医療行政・診療現場では、あまり大事にされてはいないのが実情だと言えるでしょう。